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『眠り人形』木々高太郎 1935(昭和10)

木々高太郎『眠り人形』が読める大衆文学大系25(講談社)には他に横溝正史、海野十三、小栗虫太郎がおさめられていてしかもそれぞれ名作が選ばれている。選ばれる観点が今と少し違っていてそれがかえって好ましい。よく無人島にもっていくとしたらなどという現実離れした設問があるが、聞かれたら大衆文学大系25。できたら全集をもっていこう。でも本当のところは日本探偵小説全集かもしれないな。
『眠り人形』には、伏せ字が際どいところに連続していて、はてどの位の過激さで想像したら良いのか、××は唇だろうかペニスだろうかと、思いながら読むのも楽しい。ペニス何んて言わないよな。昭和十年なら何というのだろう。創造は楽しいがやはり消化不良になる。伏せ字なしを読むには日本探偵小説全集・木々高太郎(創元推理文庫)がいい。伏せ字が回復したのはそんなに昔のことではない。創元推理文庫の仕事はすばらしい。

『眠り人形』のタイトルから川端康成の『片腕』1963(昭和38)を連想したりするが、『眠り人形』は薬を使って妻を眠りの病気に誘導していって、女性を人形化する。そして…という小説だ。探偵小説には結末へ向って書かれる独特の気配があるが、木々高太郎の小説にそれはない。推理小説と言っているが限りなく純文学だ。伏せ字にされるくらいなので表現も内容も際どい。でもそれが耽美の執拗さに傾倒していて幻想小説にもなっている。川端康成が幻視的な表現でエロティックを押し隠しているとしたら、木々高太郎はエロスで幻想を醸し出していると言える。しかも文学上の設定で書いているのではなく、たぶん木々高太郎は、ネクロフィリーで膚フェチで、尿マニア。真性の倒錯感覚をもっている。しかも中年になってから肉体の愛を知るようになったという件が他の小説に良く出てきていて、少女愛の嚆矢かもしれない。

update2010/03/18