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演劇実験室・奴婢訓。

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演劇実験室・万有引力[奴婢訓](公明新聞)

寺山修司は、演劇実験室・天井棧敷を率いて前衛的な演劇を行なった。特に、演出、役者、劇場を絡めた上演性に特色があった。だから寺山修司の「奴婢訓」の戯曲を上演することはできても、天井棧敷の「奴婢訓」を再現をするということは、なかなか難しい。当時、寺山と共同演出をしていたJ・A・シーザーの「万有引力」が、上演性を含めて天井棧敷の「奴婢訓」を上演できる唯一の劇団である。

天井棧敷の「奴婢訓」をそのままに伝えているが、1978年、晴海の初演から比べて変化はある。その一つが、J・A・シーザーの音楽である。曲自体は当時から大きく変化していないが、ロック色の強かった演奏から、現代音楽を感じさせる構成になっている。役者のパフォーマンスを促進するような音楽ではなく、舞台を根底から支える形になっている。

前半部分は、ストレートプレイ的な演出で、役者が身体を使ってはっきりと演技をしているのが明るい照明の中で見て取れる。天井棧敷時代の耽美的な雰囲気たっぷりの演出は影をひそめている。その結果、寺山修司の戯曲の構造がはっきりと見えてきていて、寺山修司や天井棧敷を知らなくても、「奴婢訓」の魅力を体験できる。演劇としてフラットな、言えば世界共通の表現で、訴える力が非常に強い。

小竹信節の美術は、天井棧敷の初演の頃からまったく変わっていないように見える。それだけ先鋭性が高かったということだ。小竹信節は「奴婢訓」で不思議な機械を生み出したが、それは人間を圧倒する機械ではなく、身体と絡んで微妙な奇妙な動きをする生き物のような機械である。この美術もまた類を見ない。

シーザーと小竹信節のアンサンブルは、今も、密かにヴァージョンアップしながら、寺山修司亡き後の寺山演劇のあり方を見事に提示している。