『モロー博士の島』H・G・ウェルズ 1896年
モンスターもので好きなのは『フランケンシュタイン』と『ドラキュラ』そして
『モロー博士の島』(H・G・ウェルズ)だ。
書かれたのは1896年。ブラム・ストーカーが『ドラキュラ』を完成させる1年前のことである。この時代の作品はそれぞれに背景があって面白いが、背景にはダーウィンの進化論がある。主人公のプレンディックが、T・H・ハクスリー教授に生物学の講義を受けたと語るところは、まさにウェルズのそのままであり、ハクスリーは「ダーウィンのブルドッグ」と呼ばれたダーウィン進化論の論者であった。論争が好きでないダーウィンに代わって論争を一手に引き受けたのがハクスリーで、ウェルズは、彼に進化論をたたき込まれた。その進化論がウェルズの小説に色濃く影を落とす。
まさに影なのは、進化して素晴らしい人類ができるという方向ではなくて、人すら野獣に戻るかもしれないという進化論の退化可能性のほうに影響を受けているからだ。
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ジョン・ハンターという名前も出てくる。ハンターは、18世紀の解剖学医であり、ここではキメラをや動物から人間を作るモローの技術的イメージの背景として使われている。
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面白いのはモローによって一旦、進化した動物が、人間になって、また再び退化していくというところだ。ダーウィンの進化論は、神学に大きな打撃を与えたと同時に、退化もまたあるのだという恐怖である。物語は、モローの島からロンドンに帰った、プレンディックが、自分もまた野獣に退化するのではないかという怖れをもって、秘かに研究に生きるところで終わる。