丸尾末広
『芋虫』 丸尾末広
yaso『モンスター&フリークス』に
ぜひ、とは思っていたのだけれど
江戸川乱歩の原作をほぼ忠実に描いた丸尾末広の『芋虫』は
他の要素を入れず楽しまれた方が読者にもよいものと諦める。
乱歩の『芋虫』は
執着と
その執着が思わず切れてしまう瞬間と
それからの絶望が
描かれた乱歩にしては文芸作品。
テーマが究極だと出てくる文学性
それが乱歩らしいと言えば乱歩らしい。
丸尾末広は
独特のグロテスク描写…雑誌のコピーを重ねているように
どこまで深くても激しくても匂いのしない
まさにコミックの筆致。
四肢なしの男とのまぐわいをこれでもかと描きまくる。
当時の風景が寺山修司の美術のように描かれているそのつまり度合いが丸尾らしい。
バナナはあの当時そんなに手に入ったかな…などと原作にない部分の
現実性を思うのも野暮だ。
嚆矢の一作と
思う。
update2009/11/04
丸尾末広
『パノラマ島綺譚』 丸尾末広
猟奇に過ぎる、B級に過ぎる…のが江戸川乱歩の映像化だ。
昔のポルノはわざと汚らしい感じ、極彩色、下品というような、劣情を煽る傾向があった。江戸川乱歩の映像はどこかにそうした敢えて、B級、ちょっとチープという感覚で、猟奇を煽るところがあったのだと思う。
+
丸尾末広は、煽る猟奇の感覚も掠めながら、少年的な美や残酷や能天気さに耽って『パノラマ島奇譚』を映像化した。丸尾は江戸川乱歩の文学としての『パノラマ島奇譚』をまっこうからコミック化している。猟奇を煽る部分はほとんどなくむしろ精緻な静けさすらある。ポーあたりを源泉にするパノラマ小説の流れを踏まえた拡がりと、それらに対する解釈も含まれている。これでは、丸尾末広に江戸川乱歩全集を作ってもらわないといけなくなる。
++
丸尾末広の『パノラマ島綺譚』は、乱歩を原作としながら昭和耽美としての丸尾末広を付加している。ポーの『アルンハイムの地所』から人見広介が『RAの話』を書いたことになっていて、『パノラマ島奇譚』が、ポーを下敷きにしていることを取り込んでいる。江戸川乱歩の『パノラマ島奇譚』は、ポーの『アルンハイムの地所』や谷崎潤一郎の『金色の死』を下敷きにしている。翻案というかそれ以上の抜き取り方だ。パノラマの描き方が、作家それぞれの好みで変わっているという感じで物語の構造はポーのままだ。
+++
丸尾末広は、フィレンツェのフェデリコⅠ世のデミドフ庭園やボマルツォの怪物公園、ルートウィヒ2世の城、ベックリンの絵を持ち込んだりする。渋沢龍彦が昭和に紹介した幻想、耽美を取り入れている。丸尾末広の元々の資質としてもっている江戸川乱歩の世界が、融合してまさに夢見るパノラマが展開している。その風景をみるだけで『パノラマ島奇譚』を手に入れる価値がある。
++++
『パノラマ島奇譚』は江戸川乱歩が雑誌に連載していたときのタイトルで、単行本になるときに『パノラマ島奇談』になっていて、今は、その名前で流通している。
update2008/06/01
丸尾末広
丸尾末広 パノラマ・パノラマ
浅草には稲村劇場という蛇女や傴僂男が
跋扈する小屋があった。ちょうど花屋敷の向かいくらいだ。
その劇場主の一族が今はイベントとビデオの会社をしているというのを丸尾末広から聞いた。
しかも丸尾さんの家から歩いて少しのところにある。
昭和の中頃にはもちろん十二階もなく、仁丹塔もまもなく壊されてしまった。それらは浅草のパノラマ館だったのだろう。感覚的な。そしてもちろん稲村劇場も。
パノラマの魅惑を知っているのは丸尾末広。
机の上にのるパノラマ・絵葉書を夜想のために作ってもらった。縦の絵も、横の絵も、護謨を使って自在に展示することができる。そのフォリオというかタトウが、パノラマになっている。吸血鬼の……。
絵葉書は絵葉書はだいたい四六判(単行本)の大きさです6枚入っています。
絵はがき(ハガキ/ポストカード)の1.4倍くらいの大きさ。
お求めは:ステュディオ・パラボリカ[para shop]へ≫
4月3日から、書店などで店頭販売される。
もしなかったら注文してください。
update2008/04/02
丸尾末広
『少女椿』丸尾末広
21巻の紙芝居『少女椿』にインスパイアーされた丸尾末広の『少女椿』
21巻通しで上演されることもあるらしい。見てみたい。
寺山修司が見世物の復権をかざしてアングラ芝居をしていたときの雰囲気やモチーフが『少女椿』にはある。
寺山修司は海外遠征をして、カントールや、ウイルスンなどの前衛演劇に触れる度に、モダンな、そしてコンテンポラリーな前衛演劇に変貌していった。寺山修司は短歌という身体性をブリッジに、最後まで、見世物的日本とつながっていたところがあり、それは『田園に死す』などの映画を見ると良く分る。
丸尾末広の『少女椿』は、アニメや芝居などにとてつもない影響を与えた。東京グランギニョールの飴屋法水も丸尾末広の世界を標榜する芝居だった。丸尾末広も舞台に登場し宣伝美術を担当していた。
夜想の後楽園球場を使ったイベントに東京グランギニョールに出演してもらったときも、全体のB全のポスターは丸尾さんだった。
見世物小屋はなくなり、寺山修司も作風を変え、少しずつみなが魔界の世界を離れぎみになった80年代、それでも丸尾末広の世界は、脈々と次世代に受け継がれていった。微妙に変貌しながら…。そして世紀の変わる頃に、アニメ版『少女椿』というとんでもない事件のような作品を生んだりもする。アニメ版『少女椿』は、映像にパフォーマンスが加味されて上映される。
見世物小屋の世界はどこまでも身体を絡めた事件を孕んで継承されていくのだ。
update2008/04/01
丸尾末広
『ハライソ 笑う吸血鬼2』 丸尾末広
ハライソを読んだら、夢を見た。部屋中に蝉がとまっていた。大きいのやら小さいのやら、びっしりとまっていた。身体が震えているので啼いているのだろうけど、声はしない。障子から月の光が射していた。
外には浮游して高い梢からこちらを見下ろしている少年がいるのだろうか。
袋状の仮面を被っている少年が這いずりながら近づいてくる気配がする。
そこで僕は目が醒めた。耿之介少年の、白いシャツの胸のポケットに忍ばせた蝉が啼く。『ハライソ』のシーンが脳裏に焼き付いたからだろう。
決して大人にならない少年と少女。吸血鬼だからではなく、丸尾末広の少年は永遠に少年であるのだ。老人の変態性を兼ね備えていても。読む度に夢魔が甦る。幼いころ鎌倉で育った記憶の中の、そして浅草に漂っていた饐えたような空気の臭いが。
少年と少女たちの吸血譚。
update2008/01/11
丸尾末広
丸尾末広
丸尾さんは夜想にも発表していない
新作を用意してくれた。
そしてコラージュの新作も。
『笑う吸血鬼』の原画も運び込まれた。
これだけ作品が一堂に揃うのは久しぶりではないだろうか。
update2007/12/24